お肉を食卓にお届けするまで
「上田さんでエゾ鹿肉を扱ってくれないか」と地元のリゾートホテルのシェフから声がかかったのは昭和から平成へと変わる頃でした。当時はジビエという言葉も一般的ではなく、フレンチレストランなどで使われる鹿肉は高級な輸入肉です。しかも地元で鹿肉と言えばハンターからもらうエゾシカの肉。中には仕留めてから時間がたち、調理をしても硬くパサパサ、旨みというより臭みが勝るような味の肉が出回っていました。
本来鹿肉は、適切な狩猟方法と処理でおいしくいただける高級肉。しかもニホンジカの中でも一番大きいエゾシカの肉は質が良いと言われ、北海道が自慢できる地元の産物。「本当においしい北海道の鹿肉を食べてもらいたい」と、二代目店主、そして三代目現店主と努力を重ね続け、数十年かけて「何度でも食べたくなるエゾ鹿肉」に辿り着きました。
食肉をおいしくいただくために一番重要なのは衛生管理です。野生動物のお肉をより安全に扱えるよう、三代目店主は鹿肉の加工場を滅菌処理された衛生的な工場として増設しました。
ハンターが持ち込む獲物は仕留めてから一時間以内のもの。エゾシカ専用の入り口から一次処理施設、食肉加工する二次処理施設、冷凍と一方向で流れるエゾ鹿肉の食肉専用ラインを通り、常に衛生的、そして肉質を落とさないようスピーディーな技術で加工します。もちろん、機器の点検、消毒など施設の管理を維持し、トレーサビリティ(流通までの食品の移動を各段階で把握すること)を確保。関わるスタッフ全員が「肉をより良い状態で届けたい」と思う職人としての意識を持ち、高め合っています。
これらの衛生管理の評価として「北海道HACCP(北海道保険福祉部)」のA評価を取得し、北海道からエゾ鹿肉の処理施設として認証されています。
現在、取引しているハンターから届くエゾシカはできるだけ幸せな状態で仕留められたもの。というのも、もともと体温の高いエゾシカは逃げ回ったり、急所をはずして暴れるようなことがあるとさらに体温が上がり、血液がまわることで肉質が悪くなると言われ、味が落ちてしまいます。
これは他の肉でも言えることですが、おいしい食肉をいただくにはなるべくストレスを与えずに仕留めることが大切。上田精肉店のエゾ鹿肉の味はハンターの意識の高さからはじまっています。
そしてその高品質な素材を製品へと昇華させるのが加工を担う職人の技です。素材の個性をひとつひとつ見極め、極上の状態でご家庭や業者様へ届けるために丁寧・清潔な加工を行っています。
エゾ鹿肉の魅力はコクのある赤身肉の味わい。その栄養成分を見てまず驚くのが鉄分の豊富さ。含有量は牛レバーをしのぐと言われ、貧血気味の方にうれしい食材です(貧血予備軍が多いと言われています)。
また、高たんぱくで脂質が低いことからアスリートやカロリーが気になる方におすすめ。糖尿病食などの制限食としても注目されています。脂の摂りすぎ、ミネラル不足と言われる現代人にとって天然のサプリメントとも言えるエゾ鹿肉、普段の肉料理に取り入れてみませんか。